ROCKIN'ON APR.1999
インタヴューアー:宮嵜広司

いやー、弾きまくってますなあ、今回!

「え?ああ、ギターの事?うん、今回は久々に思う存分、気の済むまで弾いたっていう充足感はあるよね、やっぱり」

いやー、ハーモニカも吹いてますなあ!

「(笑)うん」

というわけで、最近はマリオンのプロデュース仕事と裁判所でしかお目にかかれなかったジョニー・マー、そうとう鬱憤が
溜まってたんでしょうか。

「いや、何もそこまでのコンチクショウ!気分ってわけじゃなかったんだけど・・・(笑)。何て言えばいいのかな・・・例えば
これまでのエレクトロニックにしても、世間が想像してるような理由から、つまり僕自身がわざと自分のギターの存在感を
おさえるようにしてた、って理由からああした(シンセ&ヴォーカルを強調した)作風になったわけじゃなかったんだ。
もともとエレクトロニックを始めた際、僕にとって最も魅力だったのが”このユニットなら通常のギター・ロック以外の
フォーマットで、自分達なりのポップ・ミュージック感が追求できる”って点だったわけで。一人のミュージシャンとしても
あの時点において自分の表現力を広げる為に、ギター・ロック以外の方法論を試してみることは凄く必要なことだったん
だよね。だからこれまでのエレクトロニックにおける活動は、そういう自分にとって新しい表現方法でポップ・ミュージックを
クリエイトしていく為の、いわば学習期間みたいなものだったというか。で、今作において僕がまたギターに戻って来た
のは多分、過去の二枚の(エレクトロニックの)作品においてその学習に一応ひと段落がついた、っていう実感があった
からだと思う。実際、今の僕はいわゆるコンピューター・テクノロジーを使った表現なら、殆ど考えつく限りのあらゆる
手法をモノにできた、っていう自信さえあるし。そろそろ次の段階へ進むべき時期だ、って気持ちに移行したんだよね、
最近は。・・・それにぶちゃけた所を言えば、ジョニーマーが一体どんなドラムのプログラミングをするか?なんて事には
誰も興味がないだろうしさ(笑)」

はあはあ(笑)。

「それに・・・この僕を最も如実に表現してくれるのはやっぱりギターだったんだ、ってことにやっと最近改めて気付かされ
たんだ。まあ僕の場合、それに気付くのに10年近くかかっちゃった、ってことになるけど(苦笑)・・・でもスミス後遺症から
完全に脱する為にはそれだけの時間が必要だったってことなんだろうな、結局」

あうう(思わず涙)。いきなりな発言につい沈痛な思いに襲われたんですけど、気を取り直してインタビューを続けましょう。
今作はかつてのエレクトロニックの作品にはなかったロック的な攻撃性を備えた作風になったわけで。しかも二人ユニット
としてではなく、ベースにジミー・グッドウィン(元DOVESというバンドに在籍)、ドラムにジェド・リンチ(元ブラック・グレープ)
という布陣を敷いた、いわゆるロック・アルバムになっているわけですが、何故こういう方向性になったんです?2年ほど
前のあるインタビューで”エレクトロニックをデュオとして考えるのやめた”と語ってましたけど。


「今回こういう編成になったきっかけは、ちょうど前作の録音が終盤にさしかかってた頃、僕が自分なりのやり方で
コニュニケート出来る2人のミュージシャン達、ジミーとジェドに出会ったことだったんだ。まあ2人とも以前から顔見知り
ではあったんだけど、それぞれ他のバンドの活動で手一杯だったからエレクトロニックのプレイヤーとして引き抜くわけに
も行かなくてね。それが前作を作り終えた頃、出会った時は2人ともフリーな状態だったんで一緒にリハーサルを何度か
やってみたらお互い思ってた以上に相性がいいってことに気付いて。それ以降はトントン拍子に新曲群もバンド編成を
念頭に置いたもの、つまり僕がかつて永年やってきたギター・バンド・フォーマットを念頭に置いたものがそれこそ
エンドレスに湧き出してくるようになったんだよ。それも突如堰を切ったかのように一気に、さ。だから僕としても早く何とか
しなきゃと思って即バーニーに打ち明けてみたら、奴も殆ど二つ返事で”じゃ、次作はギター・バンド編成のロック路線で
行ってみよう!”ってことになって。その時点での今作の方向性も決まったし、同時に僕ら自身もエレクトロニックを
デュオのユニットとして考えることをやめ、今後はもっとその場その場のインスピレーションを重視したフレキシブルな
創作ユニットとして発展させていこう、って事で合意したんだ」

聞けば、今作のレコーディングも数ヶ月で一気にやってしまったそうですね。これまでのエレクトロニックといえば、
それこそ一音一音緻密に作りこんでいくのが芸風だったわけで、あなた自身、スタジオ・ワークの凝りようと言ったら
スミス時代から超人的な伝説すら残っているわけですが、この辺の気持ちの変化ってどのあたりに理由があったんですか。


「・・・これってやっぱりマリオンのプロデュース仕事をしたことがかなり大きいんじゃないかな。久々にスタジオの中で
ギター・バンドの生音をフル・ヴォリュームで聴いた瞬間殆ど電撃に打たれたみたいになっちゃって・・・何て言うか、
長い間遠ざかって忘れかけてたギター・バンド独特のダイレクトさに再び触れて腰がヘナヘナするくらいキちゃったんだよ。
特にあのヴォーカル、ギター、ベース&ドラムスって編成で殆ど一発勝負的にセッション録りするサウンドのダイナミズム
にね。コンピューター使って1パートずつ顕微鏡で吟味するような慎重さで組み立てていくサウンド作りからは、どう逆立ち
したって得られない種類のものだしさ。・・・それにあえて付け加えれば、あれがひとつの糸口にもなって僕の中で永い間
封印されてたギターへの愛情も甦ってきたんだよね。っていうのも、今の僕はやっとかつての自分がスミスってバンドで
音楽を作ってたってことに対し、何の抵抗も感じなくなったからなんだ。あのバンドにおいて、あの4人でしか作れない
音楽をやってたってことに対しても、今はむしろ、ある種の誇りさえ抱けるようになれたし・・・あんな素晴らしいものが
結局あんな終わり方をしなきゃならなかった、ってのが僕にとっては一番辛かったわけだけど、それもごく静かな気持ちで
受け入れられるようになった。10年近くもの間、振り返ることさえ苦痛を伴ったあの時期に対してさえ、つい最近の僕は
ふっきれるようになったんだ」

ううう・・・(今度はあからさまに涙)。えー、勝手に感動しといてこんな質問も何なんですが、こうして新章を迎えた
エレクトロニック、厳密に今作のサウンド傾向という観点からみた場合、必ずしも時代の音への目配せってあんまり
やってませんよね。かろうじて”PRODIGAL SON”でちょっとトリップポップ的なニュアンスが感じられたりする程度で。
何でもあなたの場合、制作中は本を読まなきゃ音も聴かない、まるでプルーストかあんたはと言わんばかりに、
あらゆる外界からのを遮断して事にあたるそうなんですけど。そうまでするあなたの頑固さというか、パラノイアって
性格なんスか?


「プルースト?面と向かってそこまで言う?」

あ、すいません、気に障りました?

「そこまでダイレクトに言われるとあきれて怒る気にもなれないって(笑)。で、本題に戻って僕の異常な制作パターンに
ついてなんだけど、こういう一種外界恐怖症気味なところはなにも制作中のみに限らず、僕の私生活においても昔から
こういう傾向はあったんだよね」

異常性格とまでは言ってませんから。

「いいから、いいから。つまりぶっちゃけたところを言えば、僕って人間は物心ついた頃から外野の人間と馴染むのが
苦手で、人見知りが激しくて、友達も広く浅く付き合うよりは、ごく少数だけど本当に信頼できる親友を持つ方がどこか
気分が落ち着く、ってタイプだったんだ。だから外界をシャットアウトするのは何も制作中nパラノイアのせいじゃなく、
今でも僕は人一倍一人で過ごす時間が必要な人間だからだよ。・・・それに僕の場合、自分がクリエイトする際、独自の
音楽性を出来るだけピュアなまま保っておきたい、って気持ちが強いからなんだろうな」

まあ、そうした姿勢には、80年代マンチェスターに心を奪われた僕のような者はいたく感じ入ったりもするわけです。
つまりは、そうやってあなた(がた)というのは徹底的に自分と向き合いつつ音をつくって来たんだなあ、と。


「(笑)ったく褒めてんだかケナしてんだか」

勿論褒め言葉ですよ。”ロッカー”ジョニー・マーではあるにしろ、やはりあなたも内省の人だったんだなあ、と。だから
こそ今一度、訊いてみたいのですが、あなたがこれまで一貫して鳴らしてみたいと切望してきたのは、どんな心象風景
だったんでしょうか?


「・・・これをいちいち具体的に説明するとなると何日もかかっちゃうって気がするし、口下手な僕に果たして他人に解って
もらえるような表現出来るのかも疑問だけど・・・僕がこれまでギターや他のインストゥルメントを通じて追求してきた音世界
ってのをどこまでも突き詰めてみた場合、そこには、やっぱり人々の最も奥深い部分にあるエモーションに、この手で直に
触れるような音を鳴らしてみたいって願望があったからだと思うんだ。といっても、僕がここで言おうとしてるエモーションって
のは必ずしも世間が思ってるような、いわゆるセンチメンタリティやメランコリックのみを指してるわけじゃないんだけど。

じゃあ例えば、あなたが”マンチェスター”と言われて即座に思い浮かぶのはどんな風景ですか?

「うーん・・・やっぱり雨かなあ。それとあの年中泣いてるかのように重く垂れ込めた曇り空。そしてその下で暮らしてる人々
・・・」

それを人はメランコリアという。

「(笑)。まあ僕だってメランコリアは否定してないよ。ただ、それが僕の全てじゃないってことをさっきの発言では強調して
おきたかっただけでね」

ふむふむ、そうスか。にしても、ここ最近のイギリスはニュー・オーダー周辺、ハピマン周辺と異常にマンチェ熱が復活し、
僕なんか今年は89年なのか?とさえ思ってるくらいなんですが。結局、最終的に踊り足りなかったのはやはりこの世代の
人間達だったのかなあ、と。


「(笑)。外部の人間にとっては不思議に見えるかも知れないけど、そういう熱意って昔からマンチェスターの土地柄でも
あったんだよ。何も89年のマッドチェスターがきっかけで一気に盛り上がったわけじゃなくてさ。それにロンドンのシーン
みたく変にトレンド先行でコマーシャライズされてないだけに、本当の意味でオリジナルなものを推奨する傾向もあるしね。
だからこそあの街は昔から多くの分野でユニークなアーティスト達を輩出してきたし、僕だけじゃなく殆どのマンチェスター
達が故郷を捨てたがらないんだと思うな。とにかく、あの街ってクリエイティブな人間にとってはこれ以上無い程創作意欲を
刺激してくれる、理想的な環境なんだよ」

なるほど。にしても、今作でエレクトロニックはもう3rdアルバムになるわけで、あなたのキャリアとしてはザ・スミス以降、
最も長く携わっているプロジェクトになったわけですが。そもそもあなたのこのバンドへの愛着って何が重要ファクター
なんですか?


「まあ・・・このユニットだと音楽的に色々冒険出来るから云々、といったいかにもプレス向きでプロの仕事人っぽい答え方も
しようと思えばできるけどね。でも僕の本音を言えば、やっぱり最終的に僕がバーナードって男の人間性に惚れ込んでる
から、これだけ長く続いてきたんだと思うよ。だってあの男と組んで以来もう10年近くにもなるんだぜ。スミスより長いって
いうか、正直言って僕自身でさえ信じられないくらいの長さだよ」

バーニーの人間性に惚れ込んでいるから・・・。ところで以前から訊いてみたかった質問をふと思い出したんですけど、
あなた何で自分のソロ・アルバム作らないんですか?あなただったら、たとえ歌が無くても充分ポップ・フィールドでも
勝負できるギター・オリエンテッド・ロック・アルバムが作れるはず、と僕はかたく確信してるんですけど。


「ギター・オリエンテッド・ロック・アルバムか。うーん・・・ハンク・マーヴィンじゃないんだからさあ、僕は」

ジェフ・ベックもジミー・ペイジもその昔ソロ・アルバムを作っていますよ。それに、キース・リチャーズだって作っていますし
ニール・ヤングだってかつてはB・スプリングフィールドのギタリストとしてスタートしたんですから。


「でもキースやニール・ヤングの場合は自分でヴォーカルも出来るしね。・・・インストだけのアルバムってのはとかく
アーティスト自身の自己耽溺的なもんに終わっちゃうきらいがあるし」

つい最近の例ではバーナード・バトラーというケースもありますが。

「(笑)。何がなんでも僕にソロを作らせる気だな。君、僕のヴォーカルって聴いたことあるの?」

一切無いです。

「いやだから聴いたこともないのにそこまでそそのかすってのは人が悪いっていうか、無責任っていうか。・・・でも実は以前
からクリッシー(・ハインド)やマット(・ジョンソン)に”お前なら大丈夫だから歌ってみろ!”って何度も言われては
いるんだけど・・・」

なら絶対大丈夫です。

「それに以前から書き溜めてる曲もあるし・・・」

だったらそれを無駄に寝かしとく手はありませんって!

「それもそうだなあ・・・作っちゃおうかなあ、この際思い切って(真剣な顔で考え込む)」

--- END ---

Special Thanx : Ms.Fumu