ROCKIN'ON OCT.2000 

(Interviewer : Yukiko Kojima)

これまで誰もが密かに訊いてみたいと思い、しかし本人を前にしてはとても単刀直入に訊けないような質問ばかりをこの際思い切って全部ぶつけてみた。特にスミス脱退以後から今日に至るまでの道程は、バンド解散時の事情が事情だけにこれまでどの取材(無論、英プレスも含めて)を読んでもダイレクトに核心に触れているものは皆無に等しい。無責任な媒体になると”そんな昔話を今更”の一言で臭い物にフタをし、平気な顔しておこなったインタビューを堂々と掲載してたりするくらいだ。が、当然ながら過去のジョニー・マーを熟知せずして、今のジョニー・マーを理解できるわけがなく、更には何故ヒーラーズの音がこうも燃焼しきれないギター・ロックになってしまったのか?という我々シンパの焼けるような質問にも永遠に答えを出すことはできない。というような経験から、今回はこういうゲシュタポの訊問のようなインタビューにならざるを得なかったわけである。

それしても、何故ジョニー・マーという男はこの期に及んでこうも自分の才能を信頼出来ないのか?ヒーラーズの音には、過去数年エレクトロニックでの活動で学んだはずのダンス文体も活用されていないし、この男の代名詞とも言える究極のリリシズムも、今やギター・バンドという最適な表現形態を手にしたにも拘わらず効果的には生かされていない。不思議だ・・・。モリッシーという年月というのはそれほどまでにあなたの心身を蝕んでいたんですか?今回個人的に最も訊きたかったのはここだった。

RO:まず、このヒーラーズというバンドを現実的に始めよう、と思ったきっかけから話していただきたいんですが。1年半ほど前、本誌でのエレクトロニック用のインタビューの際、”なぜあなたほどの人がソロ作を作らないんですか?”と訊いたら、”やるんならギタリストの自己満足的インスト・アルバムじゃなくて、ちゃんとしたバンド形態でやりたいんだけど、僕みたいなポジションにいるミュージシャンにとって、ふさわしいバンド・メンバーを捜すってのは凄く難しい。全く無名の若手ばかりをどこかから寄せ集めてきて、なんてわけにもいかないし・・・”と語ってくれましたよね。

J:うん、その発言はよく覚えてる。

RO:で、こうして晴れてソロ・プロジェクトが実現したということは、あの直後やっと今のあなたにふさわしいメンバー達が見つかったということですか?

J:そう、タイミング的にも全てのジグソー・ピースが集まったっていうか。ずっと前から自分のバンドは組みたかったんだけど、バンドってのはそもそも複数の人間達が集まってみた時のケミストリーで全てが決まってしまうからさ。適当にセッション・ミュージシャンを集めてきてハイ即席バンドの一丁あがり!みたいな感じにはしたくなかったんだ。だからなかなか踏み切れなかったんだけど、あの日君と具体的なソロ・プロジェクトの話をしているうちに自分の中でもだんだん自分がどういうバンドをやりたいか?っていうヴィジョンみたいなものがおぼろげに固まり初めて・・・・自分でヴォーカルを取ってみるってのも全く不可能な話じゃないのかも?っていう吹っ切れ、思い切りがついてきたのも丁度あの直後あたりだったんだ。

RO:なるほど。ところでヒーラーズのライブを観るのは5月27日コベントリーでのギグに続き、7月15日のリーボック・スタジアム(オアシスのサポートとして出演)で二度目になるんですが、コベントリーのギグではあなたがコチンコチンにアガリまくってるのがハタ目にもよーく解りました。

J:あはは・・・(乾いた笑い)。

RO:でもこうして場数を踏んでいくうちに、自分でもだんだんフロント・マンとしての度胸がついてきたなあ、という手応えはあります?

J:あの日の僕ってそんなにナーヴァスそうに見えた?あのコベントリーでのギグを観た知人も口を揃えてそう言うんだけど・・・でも僕個人としては実はそんなにアガっているつもりはなかったんだよ。

RO:え?そうだったんですか。

J:でも他の人間にはほとんど例外なくそう見えたってことは、やっぱりまだ僕が慣れていないってことなんだろうな。今後のこともあるし、この辺は早急に何とかしなきゃ・・・

RO:お願いします。あなたには期待してますんで。で、ですね、あなたの場合も多くのギタリストがそうであるように、もともと人前でおおっぴらに自己主張するのがあまり得意じゃないタイプだからこそ、ギターという表現媒体を選んだと思うんですが、そこで、スバリお訊きしたいのですが、自分には偉大なフロント・マンになれるだけの巨大なエゴや自己確信、そしてショー・マン・シップは充分に備わっていると思いますか?

J:う〜〜ん・・・(と唸ってしばらく沈黙した後)、イエス!

RO:本当に?

J:あたり前だろう?でなかったら最初からこうして君のおだてに乗ってバンドのヴォーカリストになったりしてないって。

RO:き、きつい反撃。

J:でも今、君が挙げた条件の中で”巨大なエゴ”ってのだけは僕の場合かなり疑問に思うかも知れないなあ・・・・。僕は個人的にエゴの不必要に大きい人間って虫酸が走るほど嫌いだから、自分のエゴについてもしょっちゅうチェックしてしてるんだ。ちょっとでも自分のエゴが抑制を失いかけてるなと気付いたら、その場で打ち砕くようにさ。自分のエゴが暴走し始めてものすごく醜いことになってしまったり、自分はおろか、何の罪もない周りの人々にまで結果的には滅亡に導いてしまったり、なんてケースをこれまで数え切れないほど見てきてるから。

RO:その気持ちはよく解ります。では、曲についてなんですが、今のところ曲だけじゃなく詞もあなたが全部書いているわけですよね。で、現在書き上がっている曲群の詞はここ数年のあなたの心境や実体験を反映したものが多いそうですが、例えば”The Last Ride”って、どこに行き着く為の最終旅行なんでしょう?

J:・・・・・・やっぱりその辺を訊かれるのか。僕としてもそういうことを訊かれるのがどうも居心地悪かったから、歌詞カードもあえて渡さなかったのに・・・・

RO:ヘッドフォンつけて何度も聴いたんですよ、この曲の歌詞。で、先ほどの質問の答えをまだいただいてないんですけど。

J:(笑)あ、ごめん。この詞は基本的にある特定の出来事や人物についてじゃなくて、僕のこれまでの半生における色んな時期のスナップ写真を並べた感じの内容になってるんだよね。だから、Last Rideってのが果たしてどこに行き着く為のLast Rideなのかは、一概に言えないんだよ。

RO:”The Lst Ride”と言うからには、最終的にどれも破局を迎えた人間関係ということになりますよね?この歌の中の一節”I Will Take You To The Last Ride”って具体的には誰に対して語りかけてるんですか?

J:・・・・・・・・・・・・・・・・・(長い長い沈黙の後、ふうっと溜息をついて)僕がこれまでの人生において出会い、神経衰弱になるほどのテンションを孕んだ関係性を共有してきた、ある人物についての歌なんだ。で、そのかつての友人との関係性を、これまでのあらゆる破局関係と重ね合わせる形で暗喩として使ってる、とでもいうか。そういう人間関係って誰もが一度や二度は経験するものだろ?一緒にいてもお互いイライラしたり傷つけ合ったりするばかりなのに、何故かお互いが惹かれ合って離れられない、っていう。

RO:それが誰を指しているのかだんだん目星がついてきました。

J:といっても別にその友人ばかり悪いって言ってるんじゃなく、そういう破局の責任の半分は勿論僕にもあるって意味なんだ。僕だってある特定のことに関してはたとえ殺されても相手に譲歩しない、ってほど妥協できない性格でもあるし・・・・僕と友人関係を保つのは楽じゃないと思う。しかもそういう性格の人間が集まって音楽みたいな緊張関係を築いていく、なんてことになったら・・・・遅かれ早かれ破局を迎えないほうがおかしいのかもしれない。そういう歌なんだよね、これは。

RO:解りました。言いにくいことを無理矢理言わせてすみません。じゃあ各曲のサウンド面についてなんですが。これまでのライブで聴いた限りでは、曲それぞれのスタイルはさすがあなただけあって実に多彩なんですけど、サウンド・アレンジに限って言えば、ごくベーシック&ストレートな正攻法ギター・ロックになっていますよね。例えば”アルバムの中の数曲をダンス系のプロデューサーに料理させてモダナイズさせてみよう”なんてことは微塵も考えてないんでしょうか。

J:でも、ここ最近は誰もがそれをやってるって感じだろう?実際に数曲を何人かのプロデューサーにリミックスしてもらったりもしたんだけど、そのどれもがイマイチって感じで・・・・ダンス系のリミックスって、今書き上がってる曲のどれにも合わない感じなんだよね。・・・・・それに正直言ってハウスっぽいピアノやガラージっぽいビートをバックにとても真顔で唄う気にはなれないよ、悪いけど。

RO:ああっ残念。2ステップで軽快に踊りながら唄うジョニー・マーを一度でいいから見てみたかったのに。

J:(無言で中指を立ててみせる)

RO:でも、あなたもご存じのように、ここ数年のシーンにおいてラジカルな表現を一手に引き受けているのはダンス系アーティストであり、更にかつてのギター・ロックが担っていた”現世代を代弁する”という役割でさえダンス系が徐々にとって代わりつつある、というギター勢にとっては非常に困難な時期に入っているわけですが。そんな中”あえてギター・バンドというフォーマットで今再び世に音楽を送りだそう”とあなたの決心させたものって何だったんでしょう?

J:そういう最近の状況を自分なりに変えたいと思ったからだよ。といっても別に”俺たちこそが今の音楽シーンをひっくり返してやるんだ!”みたいな意味で、じゃないけど。一言で言って・・・・・・・・ここ最近出てくる新人バンド達を聴いても本気でエキサイトできるような音楽観を持ってる連中にとうとう出会えなかったんだ。ベータ・バンドやバッドリー・ドローン・ボーイ以外はね。ここでいちいち名前は挙げないけど、どの新人バンド達を聴いてもミッド・テンポのセミ・バラード系っていうか・・・・・。あれじゃプレスリーやビートルズが出てくる以前の音楽状況と大差ない気がするよ。

RO:では、最近のある取材であなたが”ヒーラーズで今の僕がやりたいのは2分半燃えて気持ちよくなる為のロックンロールだ”なんてまるで金持ち有名ミュージシャンのお遊びみたいなニュアンスの発言をしているのを読みました。こういう発言ってあなたのこれまでの音楽的業績を追ってきた熱心な支持派にとってはかなり悲しくなってくる言葉だと思うんです。なのでここであえて訊かせて下さい。かつてあなたは”バンドをやるからには強迫観念に近いものに取り憑かれていないと駄目だ”という名言を吐きました。という意味でも、今のあなたのヒーラーズに対する強迫観念ってどういう種類のものなんでしょうか?

J:・・・・・これまで関わってきたあらゆるバンドやプロジェクトの場合と全く同じ種類のオブセッションだよ。だとえこれが成功しようが失敗して一文無しになろうが、自分が目指した音楽観を現実化させるまでは、脇目もふらずにこの道を突っ走る、っていう。・・・・でも君がさっき引用した某取材での発言はそういう意味で言ったわけじゃなかったんだよ。僕としては何も金持ち有名ミュージシャンのお遊び仕事みたいなニュアンスでああいう発言をしたわけじゃなく、今の僕はライブ演奏から得られるドライブ感に最も惹かれる、ってことの方をむしろ強調したかったわけで・・・・

RO:じゃあこの際、痛い質問をもう一つさせて下さい。ザ・スミス、ザ・ザ、エレクトロニックと、あなたがこれまで関わってきたバンドやプロジェクトは常に現存のシーンに対し何らかの異議申し立て、あるいは新しいコンセプトの提示をおこなってきました。同じような意味で、このヒーラーズにおいてはどういった異議申し立て、あるいは新しいコンセプトの提示を行おうとしているのでしょうか?

J:・・・・・・・・・そりゃあ勿論、僕らがかつてザ・スミスを始めた当時のそれとは確実に違う種類のものだと思うけど・・・・。でも今でも”時代性やトレンドに関係なく自分達にしかできないバンドや音楽文体、コンセプトを提示したい”ってのはこのバンドの表現欲求の大きな部分を占めてるんだよ。だって実際、今のヒーラーズがやろうとしてることと曲がりなりにも共通項を持ってる連中を捜せって言われたって、ちょっと名前が思い浮かばないくらいだし。まあ、あえて言うならスピリチュアライズドあたりが感覚的には近いのかな?って気もするけど・・・・。つまりスミス時代の僕らが抱いていた、自分こそが世界を何らかの形でひっくり返してやるんだ!っていうような使命感みたいなものじゃないことだけは間違ってないってことだよ。

RO:この世界をひっくり返してやりたい、という欲望もないんですか?

J:それはないなあ・・・。もう他人のトラウマまで全て背負ったりっていうような心理的負担を引き受けること自体が今の自分には無理だと思うし。これまでの半生において僕が経験してきた色んな出来事を音楽を通して人々に伝えたい、そしてそれに共感してくれる人々と共有し合いたい、って種類の欲望ならあるけどね。

RO:世間の一部では、スミス解散以後のあなたの一連のセッション仕事(ブライアン・フェリー、プリテンダーズ他)、そしてザ・ザやエレクトロニックに至るまで”長年スミスにおいて蓄積されてきた尋常じゃない心理的ストレスのリハビリ/セラピー的意味も含まれている”と捉える向きもあるんですが。こういった見方は全くの見当違いだと思います?

J:確かに後期スミスにおける僕の両肩にかかってた負担ってのはちょっと普通のバンド活動におけるそれとは比べものにならないほどだったよ。何せアーティストとして作品制作に毎日骨身を削りつつ、マネージャー業まで同時に掛け持ちしなきゃならないような状態だったんだから。もう24時間、秒刻みでまるっきり次元の違う事を考え、対応し、またスタジオに籠もって翌日の明け方まで作品の制作にとりかからなきゃならなかった。そうこうしているうちにはあるメンバのドラッグ問題が見て見ぬふりもできないほど深刻化してきたり、あるパートを録音したくてもそのメンバーがいくら待ってもスタジオに現れなかったり・・・本当にこのまま気が触れちゃうんじゃないか?と思ったことが何度もあったよ。でもその後、スミスを脱退してクリッシー(・ハインド)と初めて一緒に仕事をするようになった時、スミスの解散劇やそれに続いたプレスからのバッシングなんか、ドラッグ問題でメンバー二人に死なれてしまってるバンドをたった一人で運営し続けてきた彼女の苦労に比べたらほんのとるに足らないものに過ぎない、ってことに気付かされたんだ。だから彼女から学んだものは僕にとってものすごく大きかったね。それにマット(・ジョンソン)からも、バーナード(・サムナー)からも学ぶことばかりだった。この3人は僕の人生において最も必要な時に救いの手を差し伸べてくれた数少ない本当の友人であり、僕が今でも心から尊敬しているソウル・メイトなんだし・・・そんな人達との共作関係をリハビリなんて位置づけられるわけないだろ?

RO:よく解りました・・・。じゃあ今、改めて振り返ってみた場合、ザ・スミスにおける日々というのはあなたの人生においてどういう時期だったんだと位置づけてます?

J:・・・・・・(やや沈黙した後ゆっくり言葉を選ぶような口調で)その昔マンチェスターで育った4人の少年達が一緒に画策した無謀な夢が、次から次に現実化していくプロセスを実際にこの目で目撃していく日々の連続だった、とでもいうのかな?とてもこれが本当に自分の身に起こっているのか信じられなくなる瞬間が何度もあった事だけは確かだよ。・・・・それと、これは多分みんな知ってることだと思うけど、夢って甘美であると同時に、ふと何気なく踏み外した一歩がきっかけで途端にフリーキーな悪夢にもなりうる。スミスでの日々もまさに解散に至るまでの1年間くらいってのはそうだったんだ。

RO:じゃあもしあなたが今またティーンエイジャーに戻れるとしたら、もう一度スミスというバンドに全身で飛び込んで行く気はあります?

J:ああ、勿論。あの時期の僕を取り消してしまったら、そもそも僕っていう今の自分の人格さえ存在してなかっただろうからね。

(MAKIO would like to thank : banana co.)

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