74年のバート。シビれる。  ちなみにこれが今の三人

アコースティック・ギター・マガジン Vol.6//Oct.//2000

1960年代前半、紫煙渦巻くロンドンのフォーク・クラブで、ひとりのアコースティック・ギター・レジェンドが誕生した。バート・ヤンシュ。その名はフォーク・プレイヤーのみならず、ロック界の大御所からも多大なる敬意を払われてきたが、1970年代初頭にザ・ペンタングルを解散して以降、ソロ・アーティストとしての彼が歩んだ道程は決して平坦なものであったとはいいがたい。しかし、それから四半世紀以上を経た現在、この人物を取り巻く状況は変化しつつある。ひと癖もふた癖もあるアーティスト達が一堂に会したトリビュート・アルバムの発表、ブリティッシュ・フォーク〜ブルース・シーンの草創期から、世紀の変わり目を迎えた現在に至るまでの彼の音楽家としての生き様を活写した伝記本の刊行、そして何よりも、バーナード・バトラーとジョニー・マーというロック界を生きる”ヤンシュの息子たち”がレコーディングに参加した、自身の最新ソロ作のリリース・・・。唯一無二の個性に裏打ちされたバート・ヤンシュの活動は、長く、曲がりくねった道程を経て、ようやくシーンに迎え入れられたのだ。

自らが心から敬愛する人物と、ライブの後で実際に会い、祝辞を述べるというのは、ひどく緊張する事だ。ジョニー・マーとバーナード・バトラーは、3年前、初めてヤンシュに会った時の自分達の無様な姿を思い出し、微笑する。それは、ロンドンのクローチ・エンドにあるバトラーの自宅近くのパブ”King's Head"で、この孤高なるギターの巨匠がショウを行った時のことだ。”僕らは肘で互いを突付き合いながら、どっちが先に勇気を出して階段を上って行くか、決めかねていたのさ”と、マーは語る。”結局僕が先頭に立つことになったんだが、楽屋の前に辿り着いたとき、バーナードの姿はどこにも無かったよ。で、僕はバートに会い、彼がいかに僕に影響を与えたかを伝えたんだ”

ジョニー・マーは、ザ・スミス在籍時に行なった最初のインタビューから、バート・ヤンシュから多大な影響を受けたと公言してきた。実際、その事は、彼の音楽を聴けば一目瞭然だろう。”バート・ヤンシュには本当に影響されたよ”と、マーは強調する。”僕が初めてバートを聴いたのは、14歳の時だった。友だちが(ペンタングルの)”Sweet Child"と"Basket Of Light"の中の1曲"Light Flight"を聴かせてくれたんだけど、本当に心にグッと来たな。音楽自体はヘヴィだし、凄く感傷的な感じだったけど、プログレッシヴ・ロックのようにダラダラと無意味な演奏をひけらかす事なんて全然無く、実にクールだったね・・・勿論、今でもクールだよ。あの、ブルーズとジャズの要素が織り成すコンビネーションに、僕は信じ難いほどに感動したんだ。そして、ひとつの楽器に真剣に取り組もうとする人なら誰でも解ると思うけど、これは、物事に対して自分自身を測るための物差しになるっていう事に、すぐさま気付いたのさ。・・・それに、バートを発見した事で、色んな事が変わったな。僕は、バート・ヤンシュを通じてジミー・ペイジを発見したんだ・・・その反対ではなくてね。そんな奴なんて、この地球上に僕くらいしかいないんじゃないかな。それ以前の僕は、ツェッペリンをブラック・サバスやディープ・パープルと一緒にしていた。これら中近東の王子様のような服を着た長髪のバンドなんて、みんなクズだと見なしてたのさ。でも、ジミー・ペイジが実はヤンシュに入れ込んでいたという話を聞いた途端、彼は評価に値する人物になったんだ!”

一方、バーナード・バトラーはこう忠告する。”バートには、ペイジの名前は出さないほうがいいと思うよ。おそらく彼は、その事で少々うんざりしてるんじゃないかな。・・・ペイジがやったように、正統なフォークの領域をちょっとかじるというのは、いわばポップ・ミュージシャンにとって慣例みたいなものだ。彼らは、フォークのベストな部分だけを抽出して、それらをとてつもないロック・ギターに変えちまう。そして、山ほど金を稼ぐのさ。ある意味で、彼らは作品のマジックを取り除いちまっているんだと思うよ”

そして、その”マジック”ゆえに、マーとバトラーはヤンシュの最新ソロ作”Crimson Moon”のレコーディングに参加する事にある種の恐怖感を覚えたという。そのセッションにあたって、マーは最終的に、アルバム全体に寸分狂いの無いフィンガー・ピッキングを付け加えることを選び、その他の数曲ではハーモニカもプレイした。”とにかく、僕としては楽曲にフィットするような補足的なものを付け加えるか、さもなくば、完璧に突飛なことをやるしかないとわかってたんだ”と、彼は説明する。”結局、僕は無謀にも、前者を試みることにしたのさ。幸運にも、バートの傍らに座って”Fools Mate”の為に用意したアコースティック・パートを弾いた時、彼は凄く肯定的な反応を示してくれた。お陰で僕は、それをやり抜く自信を得たんだ”

ヤンシュとマーの両方に気兼ねをしたせいか、バーナード・バトラーは、得意げに自らのアコースティック・テクニックをひけらかすような手法は選ばなかった。その代わり、彼は黒い59年製ギブソンES-330と小さなメサ/ブギー・アンプ、そしてローランドのスペース・エコーをヤンシュのホーム・スタジオに持ち込み、4曲で大胆且つ奇妙なバッキングの素材・・・”Fools Mate”では繊細なスライド・ギター、”Crimson Moon”では暖かみのあるトレモロの効いたソウル・リック、"The River Bank”のバッキングでは激しいディストーション、そして、伝統的な人殺しのバラード”Omie Wise”では、不気味で奥行きのあるE-BOWギター・・・を提供したのである。”Omie Wise”では、吹きすさぶ風みたいな、フォークっぽくない雰囲気を加えたかったんだ”と、バトラーは嘆く。”で、僕はプラグを差込み、試しに一回リハーサルをしてみた。そしたらバートが”いいぞ!これでよし。じゃあ次の曲に行こうか?”って言ったのさ。彼は、事前に録音ボタンを押してたってわけ。結局、僕は2度目のチャンスを貰うことが出来なかったんだ”

ヤンシュ自身は、この”ファン・クラブ”の貢献をどのように受け止めているのだろうか?”ああ、”Fools Mate”でのジョニーの演奏は、実に素晴らしかったね”と、彼は頷く。”まさに、なるべくしてなったという感じだったな。実際、あっという間に出来たんだ。まるで、何も考えずにやったみたいにね”
バーナードの貢献については?・・・ヤンシュの顔に、気付かれないほどにわずかな笑い皺が寄る。”横に座って彼を見てるのは、本当に楽しかったよ。彼の機材も素晴らしかったね・・・特に、あの古いギブソンには参ったな。あのギターは不安定で、チューニングが変だったんだ。しかし、あの楽器から彼が引き出したものと来たら・・・。とにかく、まったくもって、あの楽器は僕には扱い切れない代物だったよ!”

彼らよりも前の世代の人々と同様に、マーとバトラーは、たとえヤンシュの指を見ながらフレーズをコピーしたとしても、それが必ずしも彼らをどこかへ導いてくれるとは限らないことを熟知している。”僕は座り込んで、バートのプレイをじっと見ていたけど、正直言って、ちっとも賢くなってないよ”と、マーは笑う。”むしろ、余計に混乱しちまったな!でも、考えようによっては、それって素晴らしい事だ。今の僕は、有難い事にギターを演奏するだけで暮らして行けるようになったけど、それでもこの先、まだまだ到達すべき場所が残されてるって事がわかったんだから。・・・バートの演奏を見る事は、決して助けにはならないね。そうしたところで、彼の演奏と寸分違わないものが得られるとは思わないし、また、そうしたいとも思わない。真に革新的な人なら誰でも、取り入れたものに対して自分なりの”捻り”を加えるだろうし、そうしてこそ、それらのものは新しく生まれ変わるんだ。実際、それこそが、バートが真に革新的な人物といえる所以なのさ”

バーナード・バトラーは、心からその意見に賛成する。”バートの演奏は、何て言うか、全く違うんだ”と、彼は切り出す。”それは完全に独自のものだから、模倣するのは不可能だね。彼の音楽を聴けば、そこにイギリスやアメリカのフォーク〜ブルーズからの影響を感じ取れるだろうし、彼がそれらをどこから取り入れたのかについて何時間も議論できるかも知れない。でも、それと同時に、彼の音楽は他の誰とも全く異なってるんだ。・・・だから、そこから何かを学んだとしたら、僕が学んだものは”個性”だった。彼の音楽の中にある力強さ、暗さ、喜びといったものを生み出す”やり方”そのものを学んだんだ。・・・”Crimson Moon"のように甘美な歌から”Omie Wise”のような人殺しの歌に至るまで、彼は自在に変化する。その”在り方”が僕は好きだね。それこそ、バートの人間としての”在り方”なんだ”

こうした”ヤンシュ・フェノメノン”にほんの短時間でも接すれば、この人物が支払われるべき報酬をようやく受け取りつつある事を友人達がいかに喜んでいるか、察する事が出来るだろう。現在の彼は、真の意味で成功を持続させ、クリエイティブな作品を作り出すことが可能な状態にいる。そのおもな理由は、バート・ヤンシュがいまだに完全に”無垢”であることだ。

”僕やジョニーは、彼に借りがあるのさ”と、バトラーは頷く。”僕にとって、今は”払い戻し”の時期だって気がするよ。単にバートと知り合っただけじゃなく、実際に僕が学んだことを彼に見せ、ほんの少しでもお返しする事ができたわけだから、格別な気分だったな”と、バトラーは気恥ずかしさとプライドの入り混じった顔をして、ニヤリと笑う。”もし、君がバート・ヤンシュと一緒にギターをプレイしたとして、彼が君のやっていることをチェックしてくれたなら・・・そりゃもう、気分は最高に決まってるだろ!”

HOME  |  ARTICLES  |  WORKS  |  BERT JANSCH

special thanx : banana co.